生活ブランド百花

伝説の「ＣＨＡＮＥＬ」

生活ブランド百花／6

　あのマリリン・モンローは、「夜は何を着るんですか、モンローさん？」と聞かれて「シャネルの5番を5滴ほど」と答えたそうです。（「ココ・シャネルの秘密」：早川書房）これはよく引用される有名な話ですが、シャネルというブランドが持つ一種の神秘性によって説得力あるものになり、聞く人を「なるほど」と思わせています。
　今回は、20世紀を代表する最高のブランドの一つといっていいシャネルについて、その人となりも含めて考えてみました。
　ガブリエル・シャネル（通称ココ：メンドリの意）は1883年にフランスのマイン・エ・ロワール県ソミュールに生まれた、といわれています。彼女自身あまり過去を語りたがらず、生い立ちや家族についての真実を隠そうとしていたと伝えられています。幸福な人生のスタートではなかったことは確かなようです。しかし、それををバネとして自立する女性としての道を歩み、才能と努力によって大成功を収めたこともまた確かなことです。
　彼女は1910年にパリに開いた小さな帽子屋から出発しました。1915年にはブティックを開いてクチュール界に進出し、1916年に当時としては革新的なジャージを素材にしたコレクションでデビューしています。そして、その後次々と成功を収めていきました。
　1924年には最初の香水を発表していますが、これは５月５日の５回目のコレクション発表会の成功を祈って彼女自身が試作品の中からNo.5を選び、それをそのまま香水の名称にしたものです。1928年にはファッション史上に燦然と輝く名作であるツイード地のシャネルスーツを発表しています。このスーツはその後定番となりました。例えば、1963年にケネディ大統領がダラス遊説中に暗殺されたとき、ジャクリーヌ夫人が着ていたのもピンクのシャネルスーツでした。
　このほかバッグは黒のシルクサテンでキルティング加工したもの、靴はベージュで爪先が金色のものが有名です。
　そしてシャネルの商品は現在、婦人用衣料品・バッグ・革小物・靴・ベルト・アクセサリー・腕時計・ネクタイから香水・化粧品までファッション全般にわたっています。しかし、他のブランドにありがちなはやりすたれや大衆化、また時代の変化につられた変容もなく、それぞれの商品分野における最高級品の一つとしての地位を維持しています。
　このシャネルの地位を守っているものは何でしょうか。多くの要因がありますが、中心に位置しているものは何よりもシャネルという一人の女性の波乱万丈と言っていい人生とその人生を通して培われた彼女自身の人生哲学だと、わたしには思われます。
　印象的な言葉があります。「服は旧友のようなもの。長くもたせなければだめよ。わたしは着古した服が好き」。（前掲書）
　彼女の人生哲学の率直な表現の一つだと思います。人と同じレベルで服と接し、そしてそれに情熱をそそいで完成を追及したということではないでしょうか。そして、これが伝統としてすべてのシャネルの商品にこめられ、それを身につける人の心をゆさぶっているということなのではないでしょうか。
　彼女の人生は、もはや伝説になりました。伝説になりうる人生だったからです。（月刊「PL」'95年6月号掲載）

ブランドネットワーク　インセプト
マネージャー　渋谷　清

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